無限の大きさ

キノコ

無限大にもいろいろな大きさの違いがある!?!
という記事を見て、自然数全体の集合と、偶数全体の集合の大きさについて考えてみた。
上記記事には、

無限大と無限大の個数を比べるのは無意味のようでもあるが、しかし、私たちは、直感的に自然数の個数の方が、偶数の個数の2倍あることが分かる。

http://ameblo.jp/kohno-masao/entry-10943462422.html

とある。「直感的に」「2倍あることが分かる。」といきなり書かれているのだが、本当にそうなんだろうか。

いきなり要素数が無限個の集合を考えると難しいので、有限個の集合で考えてみる。
まず、「1から10までの自然数を全て含む集合」\small N_{10}を考えてみよう。

N_{10} = \{\,\,1,\,\,2,\,\,3,\,\,4,\,\,5,\,\,6,\,\,7,\,\,8,\,\,9,\,\,10\}

ここで、「\small N_{10}の全ての要素に2をかけた新しい集合を作る」という演算 \small\phi(N_{10}) を考えてみる。この結果はすぐに

\phi(N_{10}) = \{\,\,2,\,\,4,\,\,6,\,\,8,\,\,10,\,\,12,\,\,14,\,\,16,\,\,18,\,\,20\}

となることがわかるだろう。そして、この集合 \small\phi(N_{10}) は「2から20までの偶数を全て含む集合」になっていることがわかる。また、 \small N_{10} の各要素に2をかけたものを \small \phi(N_{10}) としたのだから、要素数は元の \small N_{10} と同じ10個である。

同様に、「1から20までの自然数を全て含む集合」\small N_{20}を考えて

N_{20} = \{\,\,1,\,\,2,\,\,3,\,\,\dots,\,\,18,\,\,19,\,\,20\}

これに演算\phiを適用すると、「2から40までの偶数を全て含む集合」

\phi(N_{20}) = \{\,\,2,\,\,4,\,\,6,\,\,\dots,\,\,36,\,\,38,\,\,40\}

ができる。両者の要素数はやはり同じで、20個である。

では、この\phiを適用する集合をどんどん大きくしていって、「自然数全体の集合」\mathbb{N}としたらどうなるだろう?この場合、

\mathbb{N} = \{\,\,1,\,\,2,\,\,3,\,\,4,\,\,5,\,\,\dots \}

なので、\phiを適用した結果は、「偶数全体の集合」

\phi(\mathbb{N}) = \{\,\,2,\,\,4,\,\,6,\,\,8,\,\,10,\,\,\dots \}

になるはずだ。そして、 \phi(\mathbb{N}) の各要素は、\mathbb{N} の各要素に2をかけて作られたものだから、全体の要素数は同じである。

……あれ?

だがちょっと待って欲しい。

任意の偶数は必ず自然数でもあるから、偶数全体の集合 \phi(\mathbb{N}) のどの要素も、自然数全体の集合 \mathbb{N} に含まれる。また、3を含む全ての奇数は自然数だが偶数ではないので、 \phi(\mathbb{N})\mathbb{N} の真部分集合になるはずである。

\phi(\mathbb{N})\subset\mathbb{N} なのに \phi(\mathbb{N})\mathbb{N} の要素数が同じ?

まったく、わけがわからないよ。

なんでこんなことになった?

自然数全体の集合ってそもそもどんなものなの?ってのを考えてみる。
なんとなくイメージできるのは、左端が固定されていて、右方向に果てしなく伸びていて、等間隔に珠が連なっている数珠のようなものだ。

  ◆--( 1)--( 2)--( 3)--( 4)-- …… 

この数珠の右側は果てがなく、どこまでも続いている。さて、これを2本並べてみる。

  ◆--( 1)--( 2)--( 3)--( 4)-- ……
  ◆--( 1)--( 2)--( 3)--( 4)-- ……

ここで、下側の数珠を引き伸ばして、珠同士の間隔を倍にしてみる。

  ◆--( 1)--( 2)--( 3)--( 4)--( 5)--( 6)--( 7)--( 8)-- ……
  ◆--------( 1)--------( 2)--------( 3)--------( 4)-------- ……

珠の数には全く手を加えていないことに注意。で、番号を振り直してみる。

  ◆--( 1)--( 2)--( 3)--( 4)--( 5)--( 6)--( 7)--( 8)-- ……
  ◆--------( 2)--------( 4)--------( 6)--------( 8)-------- ……

すると、上の数珠の偶数に対応する位置には必ず下の数珠の珠が見つかって、なおかつ珠全体の数は同じであることがわかる。上の数珠を「自然数全体の集合」、下の数珠を「偶数全体の集合」と捉えれば、「一方が他方の真部分集合で、かつ全体の要素数が同じ」という状態が再現できたことになる。

元の記事では「偶数君」が

偶数君:「うっっ、確かに、僕が持っている数字は、自然数君は全部持っている。そして、君は、僕が持っていない数字も無限に持っている。でも、俺の数字の個数も無限なんだ。なんで僕が君に負けているような気がするんだろう・・・・・?」

http://ameblo.jp/kohno-masao/entry-10943462422.html

と悩んでいるが、何のことはない、実は「自分が持っていた"2"という数字は元は自然数君の持っている"1"という数字で、"6"という数字は自然数君が持っていた"3"という数字で、……」という具合に、単に番号を振り直しただけで同じものだったのである。

なーんだ、結局二人とも「同じものを違う見方で見ていた」だけだったのね、ということだ。

……。

胡散臭いって?
胡散臭いよねぇ。

そう思ったアナタは数学に向いています。